スティーブ・ジョブズは自ら作ったApple社を追い出された後、
ピクサーという会社を買収し、CG(コンピューター・グラフィックス)に乗り出したわけだが、このピクサーが、世界に一つの歴史を作ることになる。
そのきっかけが、たった2分の短編動画、「ルクソーJr.」だ。
初めてみたのだが、その美しさに息を呑んだ。
これは、単なるアニメーションではない。
その細部に至るまで、作者ジョン・ラセターの心の中にだけ存在していたリアルな世界が、コピーされて……いや、コピーでさえなく、現物がそのまま取り出されている。
ラセターは、この後、「ティン・トイ」という5分の短編映画を制作し、1988年のアカデミー賞短編アニメ賞を受賞する。
これが「トイ・ストーリー」の原型となるわけだが、個人的には、ルクソーJr.の方が好きかな。
何にせよ、「30年以上前にこんなクオリティのものを作ったなんて!」なんてセリフを言おうとして、代わりにため息が出てしまった。
もしジョブズが生きていたら。
「●年前に、こんな素晴らしいものを……」
そんなセリフを言わせてしまうようなものを、一体、彼はいくつ作っていたのだろう。
ジョブズがいなくなって10年。
確かにその後もAppleは、美しいもの、質のよいもの、素敵なサービスを世に出してはきた。
だが、この10年の間、製品ラインナップは基本的に変わっていないのだ。
Apple EventもWWDCも、「みたことのあるもの」しか登場せず、
今回はきっとみたことのないものが登場するかも……的なワクワク感が感じられない。
ジョブズのいない世界は、やはり退屈だ。